133 ぶら下がり

133 ぶら下がり
【楽ガンぶろぐ】

・ ジョギングで右足首を故障したあたしに残されたのは、上半身の強化だ。
・ 思い切って鉄棒にぶら下がってみることにした。

・ 肺ガンの手術では皮膚と胸膜を切るから、傷口が2重になっている。
・ 皮膚ならば傷口が開いても処置は簡単だが、胸膜の傷口が開いたら皮膚を切って処置をしなければならない。
・ 治癒にも相当な時間がかかることになるだろう。
 ・あたしはこの3カ月間、ずっとそのことを心配し続けていた。

・ 鉄棒に手をかけると、微妙に背中の引きつれと傷口のピリピリ感が起こる。
・ えーい! なるようになれ!
・ 首を吊る覚悟でつま先を離す。
・ 頭の中のタイマーがもの凄い速さで、秒を刻む。

・ やばい! 切れたか?
・ いや、大丈夫。
・ もう無理だろう。
・ まだくっついている。
・ 切れたらかあちゃんに怒られる!

・ 地上に降り立ったあたしゃ、頭のタイマーを巻き戻した。
・ 何10分もの時をさかのぼってタイマーは結論を出す。
・ 10秒。
・ 10秒は間違いない。
・ 間違いなくあたしゃ、ぶら下がったんだ!
・ あたしゃ死線を越えたように、汗まみれになりながら身をかがめていた。